チェンマイ発の夜行バスは翌朝7時半にノンカイに到着した。
国境の終点で降りた外国人は、日本人みえる若い男性の他には白人のカップル3組だけだった。
みんな不安そうに誰かの後ろに着いていこうと固まりだしたが、どうせ行ってみないと何もわからないので先に一人で歩いていった。
日本のパスポートなら30日以内はビザもいらないし、イミグレは何の問題もなく抜けられた。
両国の国境を隔てるメコン川の橋はやはりバスに乗って渡らなければならないらしく、チケットを35バーツで買って乗り込んだ。
なぜかラオスの入国審査官に20バーツを請求されたが何も聞かずに渡しておいた。

Trip.comで買ったラオス用のeSIMをアクティベートしてLOCAという配車アプリに登録した。
登録には電話番号が必要で、ラオス用のeSIMには番号がなかったので日本の電話番号を使った。
海外でローミングするとどれくらいお金がかかるか知らないが、登録用のSMSを受信する間だけだったからまあ大丈夫だろう。
その作業をしている間にもタクシードライバー達が何回か声を掛けてきたが、空港や国境付近のタクシーはぼったくりしかいないと決め込んでいたから全て無視するか断った。
あとになって考えてみると価格も聞かずに詐欺師を見るような目で彼らを見ていたのが申し訳ない。
せめて価格を聞いてアプリと比較して交渉してみればよかった。
エアコンの効いた中国製の電気自動車に揺られて30分もせずラオスの首都ヴィエンチャン市街に到着した。
とりあえずホステルに向かったがまだ朝の8時でもちろんチェックインはできず、荷物を預けて散歩することにした。
首都といっても高層ビルなんかは全くなくて、タイの地方都市と比べてもかなり規模が小さい感じがする。
まだ朝が早いからか、外を歩いているのは高齢の白人の観光客ばかりで現地の人はほとんど見かけない。
余ったタイバーツを両替して近くのベーカリーでアーモンドクロワッサンを買った。
フランス統治時代の影響か、それなりに美味しかった。
外が暑くなってきたので適当にカフェを見つけてそこで本を読んで過ごした。

気づくともう夕方になっていて、今日はクロワッサンしか食べていなかったし早めに夕飯を摂ることにした。
ローカルな雰囲気のレストランで野菜と揚げ豆腐の炒めものとご飯のセットを頼んだ。
なんとなく馴染みのある家で食べるご飯みたいで、毎日食べれそうな味だったが、別に毎日食べたいわけではない。
ラオスの料理はなんというか、タイと比べるとやはりぱっとしない印象だ。
食べ終わる頃にはもう日は暮れていて、宿に戻る前にメコン川沿いのナイトマーケットに寄っていくことにした。
朝散歩で来たときは誰一人いなかったのに、川沿いの遊歩道は白いテントの露店と、それに群がる人で溢れかえっていた。
多分ラオスではみんな昼夜逆転の生活をしているんじゃないだろうか。
マーケットは広大で、とてもじゃないが全ての店を見ることはできそうになかった。
どこまで続いているか分からないし、半分くらいの店は同じものを置いていそうだった。
昼間のカフェで、明日の昼前に出発するバンビエン行きのバスを予約していたので、今日はさっさと寝ることにしてホステルへ向かうことにした。
ナイトマーケットから宿までは徒歩数分の距離だったが、日が落ちて活動を始めたヴィエンチャンの人々が都心に集結していたため、人混みでなかなか進めなかった。
昼間には歩行者天国と勘違いするほど交通量の少なかった道路にも今では車の流れが途切れない。
交差点には基本的に信号機はないし、もちろん横断歩道なんかもっと少ないだろう。
道路上において歩行者が優先されるなどというのは民主主義国家の甘えであり、横断歩道で手を挙げても車は停まってくれない。
もし停まったならそれはトゥクトゥクかぼったくりのタクシーだ。
街灯が少なく、ヘッドライトを点けていない車も多くてなかなか交差点を渡れずに手こずっていると、同じく隣で渡るタイミングを見計らっていた女性に笑われた。
ラオス人には見えないその女性は俺が日本人だとすぐに分かったと言った。
反対に俺は彼女が何人か全然分からなかった。
東南アジア人にしては肌の色がかなり薄いと思ったが、東アジア人のステレオタイプに収まらない顔だった。
顔つき、服装、声、所作から日本人、韓国人、中国人を見分けるのは簡単だと思っていたが、彼女は例外のタイプだ。
諦めて出身地を伺うと中国人だった。
南部の田舎出身だから一般的に想像する中国人には見えないということだった。
確かに彼女が両手いっぱいに百貨店の紙袋を抱えて商店街を歩いているところは想像できいない。
二人とも既に夕食を済ませていたから近くのバーへ行くことにした。
俺はホーチミンでの年越しで飲み過ぎて以来酒を止めていたが、彼女はカクテルにはアルコールはほとんど入っていないと言って俺の分も頼んでいた。
アルコールがほとんど入っていないらしい俺のカクテルはピンク色のおもちゃのバケツに入れて運ばれてきた。
多分1Lくらい入っていて、親切にもストローが指してある。
いくらなんでも照明を落とした薄暗いルーフトップバーには不向きな子ども向けのソフトドリングだが、東南アジアではよくあるらしい。
カウンターの隣に座った彼女を改めて近くで見ると、その美しさに驚きを隠せなかった。
彼女は花柄のワンピースを着ていて、袖から露出した白い肩から手先はしっかりとケアされているのが分かる。
ばっちりと化粧もしていて都会的で、東京かバンコクにでも行く予定だったのが飛行機が間違えてヴィエンチャンに着陸してしまったかのようだ。
結局その日宿に戻ったのは日を跨いだ後だった。
一日だけの滞在で観光といえる観光は全くしなかったが、ヴィエンチャンでも思い出が出来てよかった。
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